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東京地方裁判所 平成6年(ワ)21153号 判決

原告

西山雅夫

ほか一名

被告

吉田靖夫

主文

一  被告は、原告らに対し、各金五七四万一六八五円及びこれに対する平成三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分して、その四を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分につき、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

被告は、原告らに対し、各三三七一万三一三四円及びこれに対する平成三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した亡西山幸男(以下「亡幸男」という。)の遺族である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づいて、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成三年九月二八日午後六時二分ころ

(二) 場所 栃木県小山市大字梁一二七五番地先道路(右道路を「本件道路」ということがある。)

(三) 加害者 被告

(四) 加害車両 大型特殊自動車 栃九九す三四三一(以下「加害車両」ということがある。)

(五) 被害者 亡幸男

(六) 被害車両 自動二輪車 一土浦え四一六二(以下「被害車両」ということがある。)

(七) 事故態様 亡幸男が、本件道路を下館市方面から小山市向野方面に向かつて、自動二輪車を運転していたところ、進行方向右側の畑から道路上に右折進入した被告運転に係る大型特殊自動車と衝突した。

(八) 事故の結果 亡幸男は、全身打撲等により死亡した。

2  相続等

原告らは、亡幸男の両親であり、その相続分は各二分の一である。

3  損害の填補 九〇〇万〇〇〇〇円

原告らは、損害賠償保障事業による政府からの保障金として、少なくとも右金額の支払を受けた。

二  争点

1  原告らの主張

(一) 責任原因について

道路外から道路に進入するに際して、左右を確認し、道路を走行する他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、進入してはならない義務があるにもかかわらず、被告は、漫然と本件道路に右折進入した過失がある。本件事故は、被告の右過失行為により発生したものであるから、被告は、民法七〇九条に基づき、原告らが受けた損害を賠償する義務がある。

(二) 損害額について

(1) 亡幸男に生じた損害

(ア) 逸失利益 四七〇七万八九九二円

年間基礎収入を賃金センサス平成四年男子労働者・学歴計・全年齢平均の賃金額五四四万一四〇〇円、逸失期間に対応するライプニツツ係数を一七・三〇四〇、生活費控除率を五〇パーセントとして計算する。

(イ) 慰藉料 二五〇〇万〇〇〇〇円

(2) 原告ら固有の損害(葬儀費用) 四三四万七二七六円

(3) 原告らの損害額

原告ら各損害額は、右幸男に生じた損害額七二〇七万八九九二円と葬儀費用四三四万七二七六円の合計七六四二万六二六八円から前記保障金九〇〇万〇〇〇〇円を控除した残額六七四二万六二六八円の二分の一である三三七一万三一三四円となる。

2  被告の主張

(一) 責任原因について

被告は、畑から本件道路に右折進入するに際して、左右の安全を確認し、左側方三〇〇メートルに車両の前照灯を認めたが、安全に右折進行し得るものと判断して、本件道路に進入し、右折を完了して前進したところ、亡幸男が、被害車両を時速一二〇キロメートル以上の速度で運転、進行して、加害車両に追突した。したがつて被告には、過失がない。

第三証拠

証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第四争点に対する判断

一  事故態様及び被告の責任について

1  乙第一ないし第八号証、証人小林博の証言、被告本人尋問の結果及び前記争いのない事実を総合すれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 亡幸男は、平成三年九月二八日午後六時二分ころ、本件道路を下館市方面から小山市向野方面に被害車両を運転し、時速一一〇キロメートルを超える速度で進行していた。他方、被告は、加害車両を運転し、本件道路に接する畑から本件道路に右折進入するに際して、一応、左方の動静を確認し、左側方約二五〇メートル先から前照灯を点灯させて接近する車両を確認したが、安全に進入できるものと判断して、発進したところ、右折をほぼ終了したものの直進態勢に入る直前に、亡幸男運転に係る被害車両が、被告運転に係る加害車両のローター後方左側部に衝突し、亡幸男は、全身打撲等により死亡した。

(二) 本件道路は、幅七・六メートルの見通しの良いアスフアルト舗装の道路であり(その制限速度は五〇キロメートルである。)また、事故当時は、日没直後であり、かなり暗くなつていたが、真つ暗な状態ではなかつた。

亡幸男は、被害車両の前照灯を近目の位置で点灯させ、また、被告も加害車両の前照灯を点灯させていた。

以上の事実が認められる。右事実によれば、被告は、道路外から本件道路上に右折進入するに際し、十分な左方の安全確認をすることなく、安全に右折ができるものと誤信して、漫然右折進入した点において過失があり、本件事故は、被告の右行為によつて惹き起こされたものということができる。したがつて、被告は、民法七〇九条に基づき、原告らが受けた損害を賠償する義務がある。他方、亡幸男には、制限速度を六〇キロメートル以上超過する一一〇キロメートルを超える速度で走行した点において過失があることが明らかであり、亡幸男の過失の程度は被告の過失の程度を超えるものということができる。この点を考慮すると、本件事故で原告らの被つた損害から七〇パーセントを過失相殺により減ずるのが相当である。

2  被告は、被告が右折を完了して、前進を開始した後に、亡幸男の運転に係る被害車両が加害車両に追突したので、被告に責任はない旨主張する。しかし、被告自身、本人尋問において、本件事故は、加害車両が直進態勢に入る前の状態で起きた旨供述しており、右供述によれば、被告には前記のとおりの過失があることは明らかであつて、被告の右主張は採用できない(なお、乙第二号証、第八号証及び被告本人尋問の結果によれば、加害車両には、ローターの左後部に著しい損傷が存在することが認められるが、後部及び側方部のいずれも被害車両と接触したと思われる痕跡がないことに照らすならば、左後部の損傷状況のみからは、衝突時における加害車両と被害車両の位置関係を推測することはできない。)。

二  損害額について

1  亡幸男に生じた損害

(一) 逸失利益 四七〇七万七九〇四円

亡幸男は、本件事故時一七歳の高校生であり、本件事故に遭遇しなければ、その後一八歳から六七歳に達するまで就労が可能であり、その間、毎年、賃金センサス平成四年男子労働者学歴計・全年齢平均の年収額五四四万一四〇〇円を得ることができ、生活費として五〇パーセントを控除すべきであると解するのが相当である。そこで、亡幸男の本件事故当時における逸失利益の原価は、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、次のとおりとなる。

5,441,400×0.5×(18.2559-0.9523)=47,077,904

(二) 慰藉料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

生前の生活状況、家族関係、年齢等一切の事情を考慮すると、亡幸男が本件事故により死亡したことによつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、二〇〇〇万円と認めるのが相当である(なお、右金額は、原告らの固有の精神的苦痛の程度も含めて評価したものである。)。

2  原告ら固有の損害(葬儀費用) 一二〇万〇〇〇〇円

甲第三、四号証、第五、六号証の各一ないし一〇、第七号証の一ないし一一、第八号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、亡幸男の葬儀に関連して、合計四三四万七二七六円を支出したこと、同費用は、原告らが相続分に応じて半額ずつ負担したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一二〇万円が相当と解される。

3  過失相殺及び既払額の填補

右幸男に生じた損害六七〇七万七九〇四円と原告らの固有の損害(葬儀費用)一二〇万〇〇〇〇円の合計は、六八二七万七九〇四円となる。

前記のとおり過失相殺として七〇パーセントを控除し、既払額(九〇〇万円の限度で争いがない。また、右金額を超える填補があつたことを認めるに足りる証拠はない。)を控除すると次のとおりとなる。

(67,077,904+1,200,000)×0.3-9,000,000=11,483,371

4  相続等

原告らの相続分は、亡幸男の両親として各二分の一であり、また、固有の損害額は同額であるから、原告らの各損害額は次のとおりとなる。

11,483,371×0.5-5,741,685

第五結論

以上のとおり、原告らの本件請求は、原告らについて、各金五七四万一六八五円及びこれに対する本件事故の日である平成三年九月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

(裁判官 飯村敏明)

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